心理学講師SATORUです。
エンプティーチェアとは?心理学と心理療法の技法
エンプティーチェア(Empty Chair)とは、目の前に置いた「空の椅子」を相手や自分自身に見立てて対話を行う心理療法の一つです。
もともとはゲシュタルト療法の創始者、フレデリック・パールズ(Fritz Perls) によって体系化されたものですが、現在では心理療法、カウンセリング、コーチング、キャリア相談など幅広い分野で活用されています。
歴史と心理学的背景

エンプティーチェアは1940〜50年代に体系化されました。
当時の心理療法は「言語中心」でしたが、パールズは“感情をその場で体験すること”を重視し、未完了の対人関係を椅子に投影して語りかける技法を発展させました。
このアプローチは、精神分析や行動療法とは異なり、「今ここ(Now & Here)」の感情や身体反応を扱う点が特徴。
椅子という具体物を使うことで、抑圧した感情が浮かびやすく、自己理解や感情の浄化(統合)が進むと考えられています。
参考
→心が病気を作る。なら思い込みで症状が改善することがあり得る?
アダルトチルドレン克服にエンプティーチェアが使われる理由
アダルトチルドレン(AC)が苦しむ根本には、多くの場合「親との関係で未完了の感情」が残っています。
“本当は言いたかったのに言えなかった言葉”や“飲み込んだ怒り・悲しみ”が心の奥に固まったままです。
エンプティーチェアは、この未完了の感情へ最も直接的にアクセスできる技法の一つです。
椅子に親や過去の人物をイメージとして座らせ、今の自分がその相手へ語りかけることで、頭で理解するだけでは届かない「身体レベルの感情処理」が起きます。
アダルトチルドレンのパターンは、認知療法のように思考だけを変えても改善しづらいことが多いですが、エンプティーチェアは“臨場感の中で自己主張をやり直す”ため、
✔ 自己否定の癖の緩和
✔ 怒りや悲しみの安全な解放
✔ 「自分にも気持ちがある」という実感の回復
といった深い変化につながりやすいのです。
エンプティチェアのやり方

①目の前に空の椅子を2脚向かい合わせて置き、相手をイメージして言いたかったことを話す。
②相手の椅子に座り、相手の価値観、性格、口調で自分自身に話しかける。(ロールチェンジ)
③再び自分自身の椅子に座り、相手に話しかける。
※必要に応じて繰り返す。
具体的な実践例
いろんな人と話ができます。生きてい人はもちろん、亡くなった方とも。ここではよくある実践例を具体的に紹介します。
過去の自分と話す

幼少期の自分・学生時代の自分など「当時の自分」を椅子に座らせ、今の自分が声をかける方法です。
「あのとき本当はどんな気持ちだった?」
「よく頑張ってたよ」
と話すことで、“抑圧していた本音”が浮かび上がり、自己受容が進みます。過去と今の自分がつながるため、自己肯定感の土台づくりに非常に効果的です。
過去の母や父と話す

アダルトチルドレンにおいては、親との関係が心の根っこに影響することがほとんどです。エンプティーチェアでは、目の前の椅子に「母(父)」を座らせ、普段は言えなかった言葉を伝えます。
責めるためではなく、“本当はこう感じていた”という自分の感情を認め直すことが目的です。言えなかった気持ちを外に出すことで、心が大きく軽くなる人が多いです。
昔傷つけられた(傷つけた)人と話す

トラウマになっている相手や、逆に自分が後悔している相手と向き合う方法です。
「なぜあのときあんな言葉を言われたのか」
「本当は謝りたかった」
など、心の奥に沈んでいるテーマに触れることで、気持ちの整理が進みます。未完了だった感情が“終わる瞬間”が生まれ、解放感につながりやすいパートです。
もう一人の自分と話す

人間は自分の感情に「フタ」をすることができる動物です。自分自身でも本心がわからないことがあります。
椅子に座ってお話しするのは他者だけではなく、自分自身でも可能です。
自分でも思ってもなかった感情に気づくことがあります。自分がいかに生きるべきかという問いを持っている方にも大切なことです。
身体の不調と話す

不調や病気は心が作りだしている、 と言う説を聞いたことがあるでしょうか?
本当の意味では、論理的な研究結果が次々と発表されているようです。
エンプティーチェアの創始者フリッツ・パールズ自身も「身体の不調は心が作り出している」と考えていました。
不調と向き合うこと、それは不調を作り出している自分の心と向き合うことにもなります。
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実際の効果の具体例
実践後の変化には個人差がありますが、アダルトチルドレンの克服という文脈では、以下のような効果が非常によく見られます。
人生を自己肯定できる
「過去の自分を否定していたこと」に気づき、
“あれで良かったんだ”
と自然に感じられるようになります。自分を責める癖が減るため、生きやすさが大きく変わるポイントです。
感情が癒される
涙が出る、胸がスッとする、体が軽くなるなど、感情が“通る”感覚が起こりやすいです。溜め込んでいた怒りや悲しみが浄化され、落ち着きを取り戻す人が多いです。
怒りの感情に気づく
これは現場で行なってきて、よく見ることです。心が幸せになるというのは、癒されるだけではありません。
自分自身が実は怒りの感情を持っていることに気づくと、そこから心が楽になることもあります。
また、怒りの感情に気づくと、身体の不調もなくなったと言われることもあります。それについては、心と身体の関係を参照してみてください。
うまくいかせる秘訣

エンプティーチェアは「椅子に向かって話すだけ」に見えますが、実際はそうではありません。同じ技法を使っても、人によって深さが大きく変わるのは、“臨場感”と“ガイド技術”が圧倒的に違うからです。ここでは、セッションを成功させるために欠かせないポイントを紹介します。
臨場感を持つ
エンプティーチェアの効果は、“どれだけリアルに相手を感じられるか”で決まります。
目の前の椅子に誰かが「いる」ように、五感すべてを使ってイメージする必要があります。
- 声のトーン
- 座っている姿勢
- その人の目線
- 言いそうな言葉
- 自分の体に湧き上がる感覚
これらがつながった瞬間、心の奥で止まっていた感情が動き出します。逆に、臨場感が薄いと“ただのロールプレイ”になり、効果はほとんど出ません。
実はここでつまずく人がとても多いです。
そして理由はシンプルで、臨場感を引き出せるガイド(導く人)が圧倒的に少ないからです。
ただやり方を説明するだけではなく、
どんな感情が湧いているか、身体がどう反応しているかを瞬時に読み取って、的確にガイドする必要があります。
ほんの少しガイドがずれるるだけで、クライアントは“安全な没入状態”に入れません。
だからこそ、臨場感を最大限引き出すスキルは、エンプティーチェアの成否を大きく左右するポイントなのです。
専門家と行う重要性

エンプティーチェアは「誰でもできる」と言われますが、実際には難易度が高い技法です。
効果的に行うには、カウンセリングスキルを持つ専門家の存在が非常に重要です。
臨機応変に質問や誘導ができる
セッション後の質疑応答にも対応可能
感情が溢れ出したときに安全にサポートできる
ガイドがしっかりしていれば、短時間でも自己肯定や感情整理の深さが格段に変わります。
気持ちがしんどくなる人もいる

エンプティーチェアでは、時に強い感情が湧き上がり、一時的に心がしんどくなることがあります。
この状態には二通りの意味があります。
1. 合わない可能性:エンプティーチェアが心理的に合わない人もいる
2. 成長の一部:自分と向き合うことで、一瞬苦しい感情が出ることも成長の過程
現場で多くの人を見てきた経験から言うと、後者であることがほとんどです。
適切なサポートのもとで行えば、苦しい感情も統合され、自己肯定や癒しにつながります。
環境の大切さ
エンプティーチェアの効果を最大化するためには、環境の設定も重要です。
ポイント
- 静かで落ち着ける空間
- 十分な空白時間を確保する
- グループの場合は、互いの信頼関係や雰囲気も大切
グループセッションでは、1人でも冷めた視線の人がいると、臨場感や安心感が損なわれます。
逆に、安心できる環境が整えば、参加者は自然に感情を出しやすくなります。
静かな環境は言うまでもなく、できるだけ空白の時間を作って臨む
グループでやるなら同じ志の人で行う必要があります。
1人では難しい
一見、自宅でも1人でできそうに思えますが、一人では深い臨場感を持つことは困難です。
誰かが見ている、サポートしてくれるという意識があることで、感情が安全に動き出すからです。
心理療法には技法だけでなく、人の心が必要なんです。

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エンプティチェアと身体感覚の関係

エンプティチェアは心の対話を重視する心理技法ですが、実は身体感覚との結びつきが非常に重要です。心と身体は密接に連動しており、体の反応を通して感情や思考の整理が深まります。
心と身体のつながり
心理学者フレデリック・パールズ(ゲシュタルト療法の創始者)も、心と身体は切り離せないと説いています。
例えば、怒りや悲しみなどの感情は、単に頭で考えるだけではなく、体にも変化として現れます。
- 肩や背中の緊張
- 胸の圧迫感
- 呼吸の浅さ
- 手や足の震え
こうした身体感覚を無視せず、意識的に感じながらセッションを進めることで、抑圧された感情が表面化しやすくなります。
エンプティチェアでは、単に言葉で「伝える」だけでなく、体の感覚を通して感情を実感することが、自己理解や癒しの深さを大きく左右します。
身体感覚を伴った体験は、知識として理解するだけでは得られない深い変化をもたらします。
身体と心を同時に使っているメソッドヨガ×心理学

エンプティチェアをより深く体験するためには、心と身体を同時に使うアプローチが効果的です。例えば、ヨガを行った後、またはヨガの途中でエンプティチェアを取り入れる方法があります。
(少なくとも、身体ごと深呼吸をし、瞑想的な状態でセッションを行うことが大切です。こうすることで、単に頭で考えるだけでは到達できない感覚や気づきを、身体を通して自然に実感することができます。
この方法は、文字や知識だけでは得られない「自分の中で腑に落ちる答え(統合)」を見つけるための仕組みとして非常に有効です。心と身体が連動することで、エンプティチェアの効果をより深く、実感として体験できるのです。)
ヨガを行ってから、場合によってはヨガの途中で。
少なくとも、身体ごと深呼吸をして瞑想しながらエンプティチェアを行います。
これこそが文字ではたどり着けない、知識ではたどり着けない。自分がふに落ちる答え(統合)を見つけられる仕組みです。
エンプティチェアの技法に近い動画
講座やリトリートでエンプティチェアを行う際、事前にこの動画を見ていただくことがあります。
動画自体はエンプティチェアの実践そのものではありませんが、心の中でどのような出来事が起こっているのかをイメージするのに非常に役立ちます。
カウンセラーやセラピストの方にも、指導の参考としてご覧いただければ嬉しいです。
【重要】そんなの思い込みじゃないのか!?

ここで超重要なことを言います。
相手は何を言うかなんて、「自分のサジ加減ひとつじゃないか!やって何になるのだ!?」
と思う方もおられます。僕自身が心理学を学び始めたときに真っ先に思ったことでした。
しかし、それで良いのです。確かに椅子に座った相手が言っていることは、実際のその人ではありません。
ただ、「あなたの中にいるその人」が話していることは事実です。
まとめ
いかがでしたか?今回は特にアダルトチルドレンの克服で有効だと言われる、エンプティーチェアーについての解説をしました。
心理療法でもよく取り入れられる技法ですが、うまくガイドをできる人が非常に少ないと思っています。
形だけを真似しても効果はなく、いかに本人が真剣に臨場感を持てるかどうかがカギとなってきます。
1人でもできるとよく言われていますが、それは机上の空論だと思います。行うには、熟練したガイドと良き仲間が必要です。
また、片手間ではなく、本気で自分と向き合う時間を確保して望めば非常に効果のある手法です。
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※僕自身は身体と心の両面からアプローチするためにヨガと心理を専門とし「ヨガ心理学講師」と名乗っています。
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